【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 参拾九
その日門番は驚いた。 それも無理はない。 戦に勝利したという知らせを受ける前に、出陣していったはずの主が戻ってきたのだから。 政宗は城に着くなり、真っ直ぐにの部屋を目指した。 途中すれ違った女中達も驚いていたが、そんなことは気にしてられなかった。 部屋に着いて襖に手をかける、しかし、政宗の手が一瞬止まる。 はもう目を覚ましているだろうか。それとも……。 不吉な予感を振り払うように頭を振り、襖を開けた。 その先にいたのは、起きて笑っている、ではなく、眠っている彼女と側に付き添っている喜多であった。 政宗はゆっくりと歩を進める。 「政宗様……お帰りなさいませ」 「ああ……。まだ、起きてねえのか」 「はい。お倒れになってから一度も……」 政宗はの顔を覗きこむ。 ただ眠っているだけだ。何も変わらない。今まで何度か彼女の寝顔を見たことはある。それと何ら変わらない。 ずっと見つめていれば、今にも起きて、目の前に政宗がいることに驚き、頬を赤らめるに会えるのではないかとまで思ってしまう。 だが、彼女は目覚める気配はない。 「折角、早く帰ってきてやったんだ、さっさと起きろ」 いつものように軽口を叩いてみる。だが、その声は硬い。 「喜多、何があった」 何があったかと聞かれても、何もなかったとしか答えられなかったが、喜多はありのままを話した。 直前までは何も変化はなかったこと、急に崩れ落ちたこと、そして、あれから一月以上たつと言うのには目覚めることもなく、何の変化もないということ。 「薬師の話では病でもないとのことです。あれから何も口にされてないのに体に変化はございません。ただ、眠っておられるだけです」 原因が分からないとなると、何の手も打てない。 ただが目覚めるのを待つしかない。 奥州筆頭などといっても所詮自分は無力なのだということを改めて思い知った。 何もできず、只待つだけ。 戦に連れて行っていれば、この様なことにはならなかっただろうか……。 「……Don't disappear from my sight.」(俺の前から居なくならないでくれ) 呟いた声はあまりにも細く、横にいた喜多にすら聞こえることはなかった。 は誰かに呼ばれたような気がして、後ろを振り向いた。 しかし、後ろには誰も居らず、首を傾げる。 とても、胸を締め付けられるような声が聞こえたと思ったのだが……。 「ーー!」 遠くで呼ぶ友人の声で我に返る。 「ごめん、ごめん。今行く!」 さっきのは気のせいだったのだろうと思い。友人のもとへ走った。 次へ 戻る 卯月 静 (07/10/30) |