【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 四拾
いつも通り大学へ行き、いつも通り講義を受け、いつも通り友人達とお喋りをして過ごした。 いつもと同じ毎日。変わらない日常。 だが、何かが物足りなく思うし、何故か不思議な気分になる。 懐かしい。その言葉がぴったりと当てはまるような感覚。 この感覚をは知っている。親もとを離れ、一人暮らしをして大学に行っているから。最初の帰省の時は今の様に感じた。 ああ、帰ってきたのだ、と。 だが、それは可笑しい話で、は最近は帰省どころか、旅行にすら行ってない。 遠出したといっても、日帰りでいけるところだし、今のように、長く離れていた土地に戻ってきたような感覚に陥ることなど無いはずなのだ。 こんな風に可笑しく思うのは今日ばかりではない。 締め切り前のレポートをしていて、気分転換にコンビニに行った帰りが最初だった。 特に変わったことはない。いつもの見慣れた道。 どうやらコンビニに行く途中にぼんやりとしてしまっていたらしい。 「疲れてる、のかな?」 歩きながら寝るなんて、いつから自分はそんな器用な真似ができるようになったのだろうと苦笑する。 実際寝てたかどうかは分からないが、先ほどの感覚は夢を見ていて、急に起された感じによく似ていた。 そんな時は、いつも直前に見ていた夢を忘れてしまっているのだが、今回は寝てたわけではないだろう。歩きながら寝るなどという芸当をやってのけたことはない。大方、何も考えず、ぼーっとしていたのだろう。 車通りの多い道ではないが、車でも来たら危なかったことだろう。 「早くコンビニ行って、さっさと帰ろ。あのレポート明日〆切りだし」 明日〆切りのレポートの目途も付き、気分転換にとコンビニに向かっていたのだった。 かなり頭を使ったから、甘い物が欲しい。と言うことで休憩がてら甘い物でも食べようかと部屋を探してみたが、なかった。その為、気晴らしも兼ねて外へ出たのだ。 「チョコと……あ、これ美味しいって言ってたやつじゃん、これもついでに買っとこうかな。あとはジュース、ジュースっと」 数個のお菓子と1.5リットルのペットボトルをレジに持って行き精算する。 こうやって自分でお金を払うのも久しぶりだ。 そこまで考えてはたっと止まる。 自分で金を払うのが久しぶり? そんなわけはない、自分は一人暮しで、家事の一切は自分でやらなければいけない。つまりは買い物も自分でやってるじゃないか。 一瞬止まったに、店員が「お客様?」と声をかける。 我に返り、慌てて金を出し、コンビニを出た。 「ヤバイ。マジでレポートのし過ぎかも。そんなに根を詰めたつもりはないんだけどな……」 変に思ったのはもう一つ。コンビニを見た瞬間のあの懐かしいという感覚。 昨日だって行ったから、一日やそこらで懐かしいなんて思うはずはないのに……。 レポートに集中し過ぎて時間の感覚がおかしくなったのだろうか。 集中していて思っていた以上に時間が経っていたり、逆に中々時間が進まなかったりするから、それと同じような物かもしれない。 「って、そんなこと考えてる場合じゃないし。早くレポート終わらせないとっ!」 はそこで考えるのをやめ、部屋に戻り、やりかけのレポートを再開した。 あの時からだ、見るものが全て懐かしいと思ってしまうようになったのは。 大学で友人に会った時など、懐かしくて思わず泣きそうになってしまって、誤魔化すのが大変だった。 最近はその感覚も薄れて、普通に生活しているが、今度は別の感情が浮き上がってきた。 部屋に一人でいると無性に会いたくなる。 ただ人恋しいというのではなく、会いたいのだ「彼」に。 会いたくて仕方ないのに、その相手が誰なのかわからない。 中高の同級生か? とも考えたが、どれも違うように思う。 やはりただ人恋しいだけなのだろうか……。 「カレシでもいれば、会いたい『彼』ってのはカレシなんだろうけどなぁ〜」 だが、に恋人は愚か、好きな人だっていないのだ。 「彼」が誰のことであるのか、には分からなかった。 次へ 戻る 卯月 静 (07/11/03) |