【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 四拾六





 帰ろうと思ったが、問題はどうやってあの時代に行くかと言うことだった。
 何故あの時代にいけたのかも分からなければ、どうやって戻ってきたのかもわからない。
 ただ、共通していることは、あのトンネル。
 あのトンネルを通れば、きっとどこかに行けるのだろう。それが、自分の望んでいる場に行けるかどうかは分からない。
運よくあの時代に行くことができればいいが、下手をすれば他の時代に行くことになるかもしれない。そうなれば、それこそ帰る所か、その時代で生きなければいけなくなるかもしれない。
 しかし、にはそれ以外の案を持ってなかった。
 行けるかどうか分からない。一か八か。もし駄目だったら諦めよう。
 そう思って、あのトンネルまで行った。
 服装は、あの時自分がコンビニに行こうとした時の服装。行った時も帰って来た時もこれだったから、何か関係があるのかもしれないと思った。
 そして、時間もあの時とほぼ同じ時間。
 できるだけ、向こうに行った時と同じ状況にする。

 そそて、トンネルの前に立つ。
 何の変哲もないトンネル。トンネルの向こう側は普通に道が続いていて、車が走っているのも見える。
 たぶん、推測の域はでないが、あの時代に戻ったらこちらには帰って来れないだろう。
 行って、帰って、そして、もう一度行く。
 二度あることは三度あるが、四度目はきっとない。
 たとえ、コチラに帰ってこれなくとも、いい。
 こちらの生活を捨てるといった覚悟が出来たわけではないが、このまま此処で生活しても、きっと苦しいだけだ。
 今は何も考えず、ただ、あの時代に、あの人の所に戻ることだけを考える。
 そして、は覚悟を決めて、トンネルの中を進んで行った……。




「で、気づいたらこの部屋で寝てました」

 一通り説明し終わると、聞いていた人々は信じられないという顔をしていた。
 無理もない。はここで眠っていたのだから、アチラに帰ったなどとは思わないだろう。
 夢ではないのか、と聞かれても仕方がないが、アチラに帰ったのは夢などではない。はそう確信している。

「I see.」(分かった)

 呟いた政宗に全員の視線が向かう。
 今この場に居るのは、政宗と伊達三傑の三人、猫、そして、喜多だ。
 は、喜多の目の前で自分が倒れたのだと聞いて  確かに帰る前は喜多と共にいた事は覚えている  心配させただろうと喜多も同席して欲しいと言ったのだ。

「今更不思議なことでもねぇだろ。実際は眠っていた間は、体調の変化は何も見慣れなかった。普通に眠っていたんじゃねえって方が辻褄もあう」

 が眠っている間に、彼女の体に何の変化も起きなかったことは、ここにいる人物が十分知っている。
 衰弱もせずに、何も口にしないのに何ヶ月も寝ていられるはずもない。
 そういわれれば納得できなくもない。

「ホント、色々御心配をお掛けしました」

 申し訳なさそうに言うが、全員そんなことは気にしてはいなかった。

「アンタが気にすることはねえよ」

 全員の代弁をするように政宗が答え、皆が頷く。

「ありがとうございます。……って、それはいいんだけど、政宗、いつまでこの体勢なわけ?」

 政宗は答えない。
 の言うこの体勢というのは、胡坐を掻いた政宗の上にが座っており、更に後ろから腰に腕を回されている体勢。
 皆を呼んだと、政宗に手招きされ、近くによると座らされたのだ。
 別に嫌だというわけではないが、場と状況を考えるべきだろう。というか、恥ずかしい。何も皆のいる前でこんな体勢でなくても……。
 もちろん最初は抗議した、だが聞き入れられず、この体勢のまま説明をする羽目になった。
 決して嫌ではないし、むしろこうやって傍で温もりを感じていられるのは嬉しい。
 政宗が一目を憚らず、といちゃつくのは、前々から分かっていたことなので、周りに居る者達は動じない。
 むしろ、が長く目を覚まさなかったために、絶対手離すもんかという気持ちが無意識に働いているだろうということは、小十郎だけでなく、城の者達が十分分かっていた。

「嫌なのか?」
「……嫌……ってわけじゃない……けど……」
「なら問題ねぇだろ」

 頬を染め、消えそうな声でが答えれば、満足したかのように、回していた腕に力を込め、首筋に顔を埋める。
 先ほど以上に真っ赤になるの反応を見て、政宗は満足そうに笑い、周りの者達は、呆れ半分、安堵半分といったような視線で二人のやり取りを見ていた。
 やっと、伊達軍に日常が戻って来た。


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卯月 静 (07/11/24)