【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 伍拾





「アンタ、まだ笑ってんのか……」

 隣でクスクスと笑うに、政宗は拗ねたように言う。
 いや、拗ねたようにではなく、事実拗ねているというか、バツが悪いといった様子だ。

「だって、ねー」

 政宗はを軽く睨むが、原因が原因なために、少しも恐くない。
 むしろ、小さい子供のような表情を可愛いとさえ思ってしまう。

「あの、くそジジイめ」

 政宗が悪態を吐いた相手は、政宗の師である虎哉宗乙和尚。
 政宗の師であるわけで、普通の僧侶とは違い、かなりの変わり者だ。
 いい加減二人で寺に来い、と言われ、政宗はしぶしぶ虎哉を訪ねたのだが、そこで、虎哉は政宗の梵天丸時代の話を散々に聞かせた。
 彼女としては、自分の知らない政宗の話が聞けたことは、とても嬉しいことであったが、政宗からしてみれば、自分の過去話をされるのは気分のいいものではない。
 好きな女の前では格好いい男でいたい、と思うのは何も政宗だけではなかろう。

「ほら、いい加減帰るぞ」

 厩までいき、を馬に乗せる。
 しかし、を乗せた瞬間馬は嘶き、前足を高くあげた。

「キャァァ!!」
「Shit!! そのまま飛び降りろっ!!」

 は言われた通りに馬から飛び降りる。

「くっ!!」

 を受け止めたはいいが、受け身が上手く取れず、また狭い場所ということもあり、柱に体を打ち付ける。
 馬はそのまま走り去ってしまった。
 は突然のことで、頭がついていかず、倒れこんだまま政宗にしがみついている。
 事態がそれだけで終わるはずもなく、政宗は警戒を解かない。

「どういうつもりだ、手前ぇら」

 低く地を這うようなドスの効いた声で、いつの間にか自分達をとり囲んでいる相手をみる。
 人数は5人。決して多い人数ではないが、こちらにはがいる。政宗一人であれば楽勝だが、を離すわけにはいかない。
 そして、見たところ、5人とも忍のようでその視線はに向かっているようにも思う。

、俺から離れるなよ」
「うん」

 政宗は、を抱いている腕に力を込める。
 暫くはどちらも睨みあったまま動かない。
 カチャリと忍がクナイを構える。

「政宗様っ!!」

 声と供に小十郎が来るのが見え、忍は構えていたクナイを戻し、逃げる。

「猫、追って!」

 の声に小十郎と供に駆け付けていた猫は、すぐさま後を追う。

「政宗様っ! お怪我は!?」
「I'm okey. 心配はいらね……」

 手を振り立ち上がり、大丈夫だと答えようとする政宗の体が傾いた。
 小十郎とが声を上げるが、政宗の意識はそのまま闇に落ちていった。
 倒れこんだ政宗の後頭部からは、紅い血が流れていた。   


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卯月 静 (07/12/08)