【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 伍拾七
殆どの駆け込み寺のようになっている小十郎の部屋。 やはり、今も、彼の部屋にはがいる。 しかし、今回は小十郎は執務をしているわけではなく、きちんとに向き合っていた。 「……政宗様も困ったものだ……」 の話を聞いて、溜息をつく。 もともと、政宗は不器用なところがある。 能力に関しては、秀でており、どんなことも、軽々とやってのける。 だが、ある一つの事柄に関しては、その能力が発揮されない。 人を惹きつける程の魅力を持っていて、政宗自身も自覚しているから、それを生かした振る舞いをする。 だが、彼は愛され方を知らない。 どうすれば部下が自分を慕うのか、それを彼は本能的に知っている。だが、どうすれば愛されるのか彼は知らない。 「そろそろ、潮時なんでしょうか?」 の言葉に、眉を寄せる。 「まだ、時期じゃねえだろう」 小十郎にいえるのはこれが精一杯だった。 かつて、は無断で城から姿を消したことがあった。つまりは、再び彼女が城を出て行かないとは限らない。 政宗の記憶が戻った時、彼女がいなければ、政宗の悲嘆は大きいものになるだろう。だが、いつまでもここに縛り付けておくというのも小十郎にはできないのも事実。 「だが…………」 小十郎が声をかけようとすると、スパンッ!! と壊れんばかりの力で襖が開いた。 開けたのは、成実。彼の表情はいつものような明るいものではない。明らかに怒りに満ちている。 「ちゃん。もう、こんな城出よう!」 「え、成実? 一体……」 全く意図を得ない成実の言葉に、は混乱している。 無理もない。行き成り襖が開いたかと思えば、第一声が「城を出よう」なのだから。 「成実。落ち着いて話せ」 「何で、小十郎はそんなに冷静なんだよ。ここにちゃんがいるっつーことは、政宗の話聞いたってことだろう」 低く話す成実の視線は、鋭く小十郎に刺さる。 小十郎は視線を真っ向から受け止め、返す。 「知っている。だが、城を出たところで、どうなるものでもないだろう。政宗様には記憶がないんだ」 「…………小十郎は政宗の味方だもんな」 元々直情型の成実のことだ、遅かれ早かれこうなることは予想していた。しかし、成実が政宗のことを名を呼び捨てて呼んでいるということは、その怒りは相当なものだ。 いくら従弟といえど、政宗は主で、成実は家臣。それはゆるぎない事実で、従弟だからと主を呼び捨てるわけにはいかない。それでは部下に示しがつかない。 そこのところは良く分かっているから、政宗が家督を継ぎ、成実が仕える時に、彼は殿と呼ぶようになった。 それまでは、幼名でお互いに呼び合っていた。 その彼が名を呼び捨てにしてるのだ。 「俺だって、のことを考えていないわけじゃない。今直ぐに城をでるわけにも行かないだろう。出た所で、住む場所などないだろう」 「だけどっ!」 「成実、今一番辛いのはだぞ」 言われて、成実はを見る。 彼女は困ったような笑顔を浮かべていた。 「が城を出るというなら、協力するし、出たくないというなら、城にずっといれるようにはする」 小十郎の言葉に、成実は少し頭も冷えたらしく、冷静さを取り戻しつつあった。 「ごめん……」 それだけ言うと、成実は部屋を出て行った。 小十郎は溜息をつき、はただ、見送るだけだった。 城にいる方がいいのか、出て行くほうがいいのか。 それは、自身にも分からなかった。 次へ 戻る 卯月 静 (08/01/05) |