【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 六拾弐





 政宗の記憶が戻り、も成実も城に戻ってきたことに、城の人達は大喜びだった。
 成実は散々小十郎に叱られたが、特にお咎めはない。
 ももちろん小十郎に散々叱られた上に、政宗は相変わらず彼女にベッタリで放そうとはしない。
 今までなら、恥ずかしがるだったが、政宗の前のように戻ったことが嬉しいためか、恥ずかしがることもなく、逆に周りが恥ずかしくなるくらいだ。

「でさ、小十郎。殿とちゃんっていつ祝言あげるの?」
「さあな」

 城に戻って、政宗は城の皆に、を正室にすると報告した。
 家臣からすれば、やっと主が身を固めてくれると大喜びだ。
 が正室になることに、反対する者は出てこなかった。

「さっさと夫婦になっちゃえばいいのに」

 祝言をいつにするかという話は一向に聞かない。
 今の状態だと、婚約中といったところだ。

「未だに政宗様達を襲った犯人が分からないから、それが落ち着いてからだろうな」

 政宗達を狙った、あの忍を誰が雇ったか、未だにわからない。
 勘解由に任せてはいるが、一向に犯人が割れないらしい。
 それがはっきりしない今、祝言を挙げるのは危険だ。
 祝いで皆が浮かれている時に、狙われる可能性がある。

「犯人分かったら、絶対ぶん殴ってやるっ!」

 ぐっと成実は拳を握る。

「そいつのせいで、大変なことになったんだからな」
「ですが、それを引っ掻き回して、悪化させたのは成実じゃないですか」
「綱元……」

 振り返ると、綱元が呆れたような顔で立っていた。
 綱元の言うとおり、成実が政宗に宣戦布告のような発言をしたことは、状態を悪化しているように見えた。

「なんだよ。ちゃん連れ出したお陰で、殿が気持ちを自覚したんだろ」
「その点では、成実の手柄だな」

 小十郎の言葉に、成実は「だろー」と嬉しそうにしている。
 結果的には、が正室になることまで発展したのだから、よかったのかもしれない。

「おや、どこかに行くのですか?」
「ん。殿んトコ」

 成実は部屋を出て、政宗の部屋に向かった。

「殿ー。何の用?」

 部屋には珍しく政宗しかいなかった。
 最近は必ずと言って良いほど、が傍にいたのだが……。

「あれ? ちゃんがいないって珍しい」
に聞かせるわけにはいかないからな」
「ふ〜ん。で、話って?」

 成実はその場に腰を下ろす。
 成実を見る政宗の瞳は、幾ばくか鋭い。

に手出したのか」

 声は低く、瞳は鋭い。嘘偽りを言えば、即刻叩っ切るといった様子だ。

「出してないよ」
「本当だな」
「うん」

 あの場では、政宗を挑発するために、あんな風に言った。だが、二人の間に何もない。そのことは、に聞いているとは思うのだが。

「じゃあ、手前ぇはに惚れてたのか?」

 いずれ、聞かれるとは思っていた。
 記憶をなくしていた時も同じように聞かれたが、その時は応えなかった。

「違うよ。確かにちゃんのことは好きだけど、それは政宗の言っているような意味じゃない」

 暫くの間、政宗も成実も何も言わず、お互いを見ていた。

「ならいい。…………迷惑かけたな……」
「別にいいよ。俺だって、殿に対して暴言吐いたわけだしね」

 立ち上がり、政宗の城を出た。
 梵天丸の頃から、政宗が大変だったことは、成実はよく知ってる。だからこそ、政宗には幸せになってもらいたい。
 ちゃんの隣にいる政宗が、一番幸せそうだった。だから、元に戻って欲しかった。

「俺にも可愛い子が現れないかなぁ〜」

 呟いて、空を見上げる。
 蒼く澄み切っている空は、今の成実の心そのもののようだった。


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卯月 静 (08/01/22)