【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 六拾参
政宗とが、夫婦になると決まり、めでたしめでたし、ではあるが、政宗の記憶は未だに戻ってはいない。 「本当に大切にしてんだな……」 部屋の主のいない、の部屋で、政宗は短刀を眺めていた。 手入れが行き届いている。 持ち主が相当大切にしていることが分かる。 だが、それを眺める政宗の表情は、どこか悲しそうでもある。 自分は、これを贈った時のことを覚えていない。どんな状況で、どんな意図で、どんな気持ちを込めて彼女に贈ったのかわからない。 「自分自身に嫉妬するなんてな……」 自嘲気味に、苦笑し、呟く。 過去の自分は、これを贈った時のの表情を知っているのだろう。 彼女のことだから、喜んでくれたのかもしれないが、その顔は過去の自分しか知らない。 それは、自分であって、自分でないものが知っていること。それ故に、どこか悲しく、羨ましい。 「政宗? 何やってんの?」 「いや、これを見ていた」 これと、政宗は持っていた、短刀を見せる。 「随分大切にしてんだな」 「…………他人事みたいに言うね」 「……贈ったことを覚えてねぇからな」 「……ごめん……」 「気にすんな。少し、悔しいだけだ、過去の自分に対してな」 そう言って、笑っているが、どこか自嘲めいた笑みで、の胸は痛む。 政宗のこんな顔はみたくない。いつも自信に溢れてて、強くて、優しいのが伊達政宗ではないか。 「一番初めに会った時、私は自分のことをかぐや姫って言ったの」 「?」 「で、どんな作戦で、伊達軍に対抗しようとしてたかって、話したら、気に入られて、城に来いって言われた」 突然、何を話し始めたのかと、政宗は声をかけたが、はやめようとしない。 「で、服を着物の中に着てる、って言ったら、行き成り脱がそうとかするし。あれは流石に驚いたなー。」 そこまで、言って、はまっすぐに政宗を見つめる。 「覚えてないのが辛いなら、私が、何度でも話すから。そしたら、ちょっとづつ思い出すかもしれないし」 「…………」 「それに、少しくらい覚えてなくっても、これからは、今まで以上に一緒にいるわけでしょ。それなら、今までのこと以上のことがいっぱい起こるから、忘れた時間のことは、一緒にいる時間の、ほんの一欠けらのことになるよ、ね?」 忘れる側よりも、忘れられる側の方が辛いのに、それでも、笑顔で言うを愛おしいと想うと同時に、強く抱きしめた。 これから、時間が沢山あるんだ。 記憶を取り戻すことは、まだ諦めてはいないけど、記憶のない時間が霞んでしまうくらい、一緒に過ごせばいい。 次へ 戻る 卯月 静 (08/01/26) |