【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫 六拾伍】閑話 来客
政宗の執務室の襖がスーッと開けられる。 そこでは、丁度休憩中で、政宗とはティータイムだった。 「失礼致します。様にお客様です」 「え? 私に?」 この時代に来てから、いろいろ知り合いが出来たとはいえ、その知り合いは殆どが伊達軍の人間で客が来る、といったことは今までなかった。それに心当たりも無い。 だが、女中は間違いなくに客だと言った。 「っ!!」 女中が一礼し、下がると、小さな影がにぶつかった。 「うわっ?! ……いつきちゃんっ?!」 にぶつかった、というか、抱きついたのは、ツインテールで目のくりっとした女の子。 この時代に来て、一番最初に出来た友人だ。 「久しぶりだ、」 「うん、久しぶり。どうしたの? 村からここまで遠いのに」 「蒼いお侍んとこに、米を納めるのについてきただ。に会おうと思ってな」 「私に会いにきてくれたの! ありがとう!! すっごい嬉しい! 元気だった?」 は懐かしさと、いつきが会いに来てくれた嬉しさとをいつきをギューと抱き返すことで表した。 「おらも、村の皆も全員元気だ。の方こそ、蒼いお侍にいじめられたり、変なことされたりしてねぇだか?」 「人聞き悪ぃこと言うんじゃねえよ。俺がに危害加えるわけねぇだろ」 いつきの言葉に、政宗は二人を引き剥がして、そのまま、を後ろから抱き込む。 「信用できねえだ。殆ど無理矢理、をつれて行ったくせに。を泣かしたりしてないだか!」 「Ah...」 「泣かせてないか」と言う問いに、政宗は視線をいつきから外す。 もう既に、を泣かせてしまっている。さらに言えば、彼女に酷い態度を取って、傷つけてしまったことは記憶に新しい。 「なっ?! を泣かしただか!」 政宗の反応に目くじらを立て、今にもハンマーで政宗をぶん殴ろうと構える。 「ちょっ!! いつきちゃん、ストップッ! 待った!! 大丈夫だから、政宗には酷いことはされてないから」 構えたいつきを止めようと、慌てて、宥める。 簡単に政宗がやられたりはしないだろうが、ここで、二人で暴れられては困る。 「本当だか?」 「うん」 未だ訝しげにはしているが、がそうだというのならと、しぶしぶハンマーを引っ込めた。 「それに、は俺の妻になるんだ。酷いことなんかするわけねぇだろ。なぁ」 を抱き込んだままで、声を出した為に、耳元で話される形となる。 その上、「政宗の妻」と言われ、は頬を赤らめた。 「…………、蒼いお侍のお嫁さんになるだか?」 「……うん」 真っ直ぐ聞いてくるいつきに対し、顔を赤くしたまま、頷く。 「ほ、本当だか? お侍に脅されてたり、弱み握られてたりしないだか?」 「してねぇよ。いい加減信じろ。I get married to her so I love her.」(好きだから結婚するんだ) 異国語で言われた為に、いつきは意味が分からなかった。 が、は十分理解できた為に、先ほど以上に真っ赤になった。しかも、政宗は最期の"I love her"を御丁寧にも、耳元で囁くように言った。 「変な言葉で言われても分からないだ」 「惚れた相手だからに決まってるだろうって言ったんだよ」 そうなのかという視線を向けられ、は頷ずいたが、恥ずかしくて、頷くしか出来なかった。 いつも、日本語、異国語に関わらず甘い言葉を囁かれることは多いから、慣れたと思ったが、耳元であんな風に囁くのは卑怯だと思う。ドキドキしないはずがない。 「が幸せならそれでいいだ。でもっ!」 と、いつきは、ハンマーを政宗に向ける。 「を泣かせたら、このハンマーでぶん殴ってやるだ!! 、辛いことがあったら、いつでも村に戻ってくるだ。皆、を歓迎するだ」 「うん。ありがとう」 いつきは一泊だけして、そのまま村に帰った。遠い道のりなので、危ないから、伊達軍の誰かを護衛につけてるかと、政宗が言ったが、村から年貢を納めにくるときは、村に残った侍達が護衛をしてくれるらしく、大丈夫だと言われた。 いつきがいる間は、いつきはにベッタリで、政宗は殆どと一緒に居れず、尚且つ、良い機会だと、小十郎にみっちり仕事をさせられた。 ティータイムにはがお茶を持ってきたが、いつきもそれについてくる為、二人っきりではない。 政宗にとっては、少し不服ではあるが、いつきと一緒にいるは楽しそうで、二人がまるで姉妹にでも見えたものだから、しょうがないかという気持ちにもなった。 いつきが帰ったのだから、これから、ずっとを独り占めできると、暫くの間は、全くを放さなかった。 次へ 戻る 卯月 静 (08/02/12) |