【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 六拾六
が初めて、政宗と城下に下りた時。 二人は暴漢に襲われた。 の髪が短くなってしまった、ということ以外、二人に被害はなかった。 だが、城下にその暴漢を捕らえてあるといわれ、小十郎はそいつ等を回収しに、数名の部下を伴って現場に行った。 そこには、政宗達を襲ったであろう暴漢が居た。いや、居たというよりも、在った。 「これは……いったい……」 その暴漢達は、既に事切れていた。 全員急所を一突きのようだ。 政宗は暴漢を殺したとは言っていなかった。倒したと。そして、縛って置いてきたと言ったのだ。 政宗の腕であれば、急所を狙えば一発で仕留めることはできる。 だが、傷口は全て突かれているようで、政宗の太刀筋ではない。そして、あの時、側にはがいた。 政宗がの前で、人を殺めるとは到底思えない。 疑問が残るまま、小十郎はその場を片付けることにした。 政宗の記憶が戻り、奥州は特に問題もなく、城には平和な時間が流れていた。 「政宗様。書簡が着ております」 小十郎の差し出す書簡を受け取り、中を読む。 読み終わり、閉じると、政宗の口元は弧を描いていた。 「小十郎。旅の支度だ」 「かしこまりました」 書簡がどこから来たものか、何について書かれてあるか、それを小十郎は承知している。だから、理由も聞かず政宗の命にしたがう。 「……政宗様、何処に行かれる御つもりで?」 「に旅のことを知らせてくる」 「それは今でなくとも良いでしょう。そこの書類を終わらせてからでも遅くはありません。何も今日明日に旅立つのではないのですから」 「……shit……」 立ち上がる政宗を、制止し、机に張り付かせる。 口調は穏やかだが、有無を言わせない響があった。最近サボりすぎたツケがでてきたらしい。 しかし、反論もできず、しぶしぶ机に向い直し、盛大な溜息を付いた。 「旅?」 「そうだ」 「じゃあ、また城空けるんだ……」 「そうなるな」 夕食も済ませた後で、政宗はに旅に出ることを告げた。 戦でないだけマシだが、それでもにとって、政宗がいなくなるというのは寂しい。 だが、城主が城を空けるだから、よほど重要なことなのだろう。 「その間は、城は誰が仕切るの? 綱元さん?」 「に、なるだろうな」 最近政宗が長期で城を空ける時は、綱元は城を任されることが多い。 「……どれくらいかかる?」 行くなとはいえず、自分も付いていけないかと言い出そうかどうしようか悩みつつ尋ねる。 直ぐに帰ってくるのであれば、自分が付いていきたいなどといわない方がよいだろう。 寂しそうな、そして、不安そうな瞳で尋ねられ、政宗の庇護欲が掻きたてられる。 これが、本当にを置いていかなければいけないとすれば、来るかと聞いていただろう。だが、今回は少し違う。 「んな、寂しそうな目でみるなよ。旅にはお前も一緒に行くんだからな」 「え? ホント?」 「Yes」 一緒に行けると聞いた途端、の表情が明るくなる。自分と一緒にいたいのだということが伝わり、政宗の口元は我知らず綻ぶ。 「じゃあ、用意しなきゃ。って何用意すればいいのか分かんないし……。後で喜多さんに聞かなきゃ」 そわそわと、だが、楽しみだといった様子で独り言を呟く。 そんなをして、政宗は笑う。面白いからではなく、その様子が酷く可愛いと思ったからだ。 「あー、もう。笑わなくてもいいじゃん。でさ、何処に行くわけ?」 「虎の棲みかだ」 次へ 戻る 卯月 静 (08/02/26) |