【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 七拾





「…………あの……いいんですか?」

 走り去ってしまった幸村を気にせず、信玄と佐助は同盟の話を進めようとしていた。
 ここに呼ばれたからには、幸村もいる必要があったのではないか。いないと拙いのではないか、と思いは声を掛けた。

「あー。姫さんは気にしなくていいよ。あれはいつものことだから」

 が、一蹴されてしまった。
 幸村の反応に驚いているのはどうやら、だけらしい。
 政宗はともかくとして、信玄が佐助に何も命じる気配が無い以上、問題は無いのだろう。

「ふむ。時期に幸村も戻ってくる。それまでにわし等だけで終わらせておいても問題はない」

 信玄がそういうなら、には何も口を挟む余地は無い。

「書簡で大よそのことは分かっておるが、同盟を望む理由を聞かせて貰おうかの」
「理由? んなの決まってるだろ。俺等、いや、を狙ったヤツをぶっ潰すまで、無駄な戦をしたくないだけだ。別に戦の手助けをしてくれっていってるんじゃねえ。片がつくまで奥州に仕掛けてこなけりゃいいだけだ。片がつくまでは甲斐に手はださねえ。その方が上杉と心置きなくできるだろう? 悪い話じゃないと思うぜ」

 二度の襲撃は同じ者の仕業に違いない。
 喧嘩を売られて、黙っている政宗でも無い為、黒幕を引きずりだして、分からせてやらないと政宗の気が収まらない。
 黒幕の見当がついてないわけではないが、そちらに気を取られている間に、他国に攻められるわけにはいかない。
 上杉相手に同盟を申しいれるという考えもあった。だが、上杉が攻め入ってくるとは思えない。
 上杉は基本的に他国を攻めるということをしないのだ。
 そして、何より武田には幸村がいる。上杉と同盟を組めば、武田との戦をしなくてはいけなくなるかもしれない。そうなれば、幸村との決着は回避できない。
 それでは、黒幕を見つける前に、戦力を削がれてしまうだろう。
 上杉が攻め入ってこないのなら、武田と同盟を結ぶのが最上だと判断した。

「確かに、悪い話ではないの」
「なら決まりだな。を連れてきたんだ、この場で反故にはしねえよな」

 武田へ同盟の申し入れをすれば、あっさりと同意の書簡が返ってきた。
 只一つ、「竜の宝珠」を同盟の場へ連れて来れば考えてもよいという物ではあったが。

「よかろう。奥州と同盟を組もうではないか」




「申し訳御座いませぬ」
「い、いえ。頭を上げて下さいっ!」

 土下座で誤る幸村に、はうろたえていた。
 あの後暫くして、戻ってきた幸村だが、大事な席で勝手に席を外してしまったことをに謝っているのだ。
 先ほどから、と幸村のやりとりはあまり変わらない。

「悪いのは政宗ですから。あんな場で、あんなことをするのが悪いんです」
「あんなこととは人聞きが悪ぃじゃねえか。好きな女に触れて何が悪いんだよ」
「半分以上は幸村さんをからかう為だったくせに」
「Ha! 否定はしねえ」

 他人の家の、しかも、あんな大事な場で見せ付けるような真似をするのが悪いのだ。
 他の男が寄ってこないためだと言われれば嬉しくないわけではないが、これだけ幸村に謝られると此方が全面的に悪い気がしてしまうのだ。

「政宗殿の奥方殿は心の広い方でござるな」
「幸村さん。私、まだ政宗の奥さんじゃないですよ」
「で、でも、政宗殿が……」
「似たようなもんだろ。どうせ、俺の妻になるんだ、今からそう紹介した方が都合がいい」

 信玄にを紹介する時に、政宗ははっきりと「正室」と言った。
 結婚の約束もしたが、まだ婚礼は終わっていない。まだ二人は夫婦ではないのだ。

「め、夫婦でもないのにあの様なことを…………破廉恥ではないか!!」

 ああ、この人はよほど純情なのだな、とはシミジミ思う。
 現代でこれくらいで、真っ赤になって慌てる人は見たことは無い。
 彼に恋人ができたらいったいどのような感じになるんだろうかと、不思議に思った。

「幸村さんは恋人はいらっしゃらないんですか?」
「こ、恋人などと。某にはまだ早いっ!!」

 恋人がいるかどうかと聞いただけでこの反応。

「女性に興味がないんですか?」
「……そ、そういう意味では……」
「ひょっとして、男性の方が好みですか?」
「ま、まさか!!! 某も、女子に興味がない訳ではないし、まして男になどとっ!!」

 からかくように言えば、更に顔を赤くして叫ぶ。
 これはからかい甲斐がある。
 政宗が幸村をからかうのも分からなくはない。

「姫さん。旦那からかうのもソレくらいにしてよ」
「あれ、佐助さん。猫と話してたんじゃないんですか?」
「あー。もう終わったよ」

 忍同士、情報の交換などがあるのか、猫と佐助は暫く、二人だけで話していた。
 佐助の言葉通り、猫もいつの間にか来ていた。

「真田の旦那。あの二人の言葉間にうけちゃだめだよ。特に竜の旦那の場合はね」

 政宗の前にも関わらず、政宗はを後ろから抱きしめ、首筋に顔を埋めている。
 その光景に、幸村は直ぐに赤くなる。
 こうなることを分かって、政宗はやっているのだ。

「うむ。分かっているぞ、佐助。そうだ。政宗殿達はいつ甲斐を去るつもりでござるか?」

 いつまでも奥州を開けておくわけにいかない。

「もし、時間があるようなら、城下を見て帰ってくだされ」
「城下町か……」

 はチラリを政宗を見た。すると、直ぐに視線がかち合う。

「そうだな……」

 から視線を外し、応える。

、明日にでもいくか?」
「行く!」

 こうして、甲斐での観光を楽しむことが決まった。


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卯月 静 (08/03/23)