【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 七拾八
伊達軍が、豊臣との戦の準備をしているという情報が入った。 それを知らせに来たのはやっぱり、半兵衛で、彼は「よかったね。助けに来てくれるつもりみたいだよ」と言ったが、その表情は全くを喜ばそうと言った様子ではなかった。 きっと、自分の策通りに事が運んでいるのが嬉しいのだろう。 それがには、酷くムカつく。伊達軍が、政宗が莫迦にされているように思えてならない。 「もっと喜んだらどうだい? ……その話はいいといて、君にも我が軍に協力してもらおうか。その為にわざわざ連れて来たのだからね」 正直、豊臣軍なんかに協力はしたくない。は伊達軍なのだから、何故敵の軍に協力などしなければいけないのか。 だが、ここで下手に逆らったところで、無駄だろう。 は無言のまま、しかし、半兵衛を睨みながら、彼の後に付いていく。 着いた先には、多くの兵がいた。 秀吉、半兵衛そして、は彼らを見下ろしている形となる。 「伊達軍が豊臣を攻めようとしているらしい」 半兵衛が話始めると、ざわついていた兵が、静かになった。 彼自信はさほど大きな声は上げていないが、彼の声は異常に響いた。最後尾の兵にも聞こえているのかもしれないと思うくらいだ。 「独眼竜は手ごわい相手だ。きっとすんなりとは終わらないだろう。でも……」 半兵衛は隣にいたを引っ張り、皆に見えるようにする。 「こちらには『一揆衆の姫』が付いている」 ざわざわと囁きあう豊臣軍。 「君達も北の一揆のことは知っているだろう。農民の起した一揆にも関わらず、北部の武将を次々と抑えていった。最終的には伊達が治めたが、罰された者はいない」 豊臣の兵達は、半兵衛に釘付けられたようにじっと聞いている。 「それは一重に、『不思議な力を持った姫』がいるからだと。彼女のお陰で一揆は成功した。だが、罰された者はいなかったが、姫は伊達に囚われた」 は半兵衛を見た。 この男がこれから何を言いたいのか分かった。 確かに、は政宗に半ば強制的に連れてこられたが、その後城にいたのはの意思だ。 それに、かなり自由はきいたし、別にどこかに幽閉されていたわけではない。それを囚われていたなどと……。 「だが、僕は姫を伊達から助け出した。そして、今彼女は、僕達豊臣の為にここにいるっ!!」 豊臣兵から、大きな歓声があがる。 それをみて、半兵衛は満足気だ。 「我等が目指すは世界っ!! これは世界を掴む第一歩だっ!!」 畳み掛けるように、秀吉が叫べば、兵は一際大きく歓声をあげる。 盛り上がっている兵を尻目に、は半兵衛に話掛ける。 「……これなら、私は居なくてもいいんじゃないですか」 「そんなことはないよ。実際に君がいるのといないのでは、信憑性が違うからね」 「そうですか。そろそろ部屋戻っていいですか」 「そうだね。今回の君の役目は効果的に果たせたようだし」 半兵衛とは、秀吉を残して、部屋に戻る。 「それで、いつになったら、あの短刀返してくれるんですか」 部屋に着くと、は行き成り切り出した。 「……人質に刃物を持たせる程、僕は愚かではないよ」 「自害の恐れがあるからですか? それとも、脱走の心配ですか?」 すんなり返してもらえるとは思っていない。だが、あれは政宗から最初に貰った物なのだ、それを他人に渡したままにして置きたくはない。 「自害するつもりはないから安心して下さい。政宗が来るのに、自分の命を散らすほどバカじゃないし、まだ死にたくないので。それと、脱走も、私くらいの力量で、見張りの忍を倒せるわけないと思いますけど」 「……本当に君は変わってるね。普通の姫ならそんなことは言わないと思うけどね」 「普通ですよ。少なくとも、人を使って二度も仕掛けてくる人よりも」 「気づいてたのか」 「二度襲われて、最終的に攫ったのが貴方なら、今までのも貴方の仕業と考えるのが妥当でしょう? それとも違ってましたか」 「女子にしておくのは惜しいね。君ならいい軍師になれただろうに」 「女でよかったですよ。男では政宗とは恋人にはなれなかったでしょうから」 半兵衛の嫌味とも誉め言葉とも付かないものに、笑顔で言ってのける。 「本当に、君が豊臣軍でないことが残念だ。これは君への敬意の印だ」 投げられたものを思わず受け取る。 それは紛れもなく、政宗から貰った短刀だ。 半兵衛が出て行った後で、短刀を胸に抱く。 政宗がこちらに来ている。そして、今手元にはこの刀がある。 それだけに心強い。 もう怪我も治ったし、もう直ぐ政宗達が攻めてくることで混乱が起きるだろう。 ならば、自分のする行動はひとつ……。 そう、は待ってるお姫様と言うのは性に合わないのだ。 次へ 戻る 卯月 静 (08/04/27) |