【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 八拾





 城中が騒がしい……。おそらく、戦が始まったのだろう。
 扉一枚を隔てた向こう側では、慌しく多くの人が走る音が聞こえるし、外は何かを叫んでいるというか、怒鳴っている声がよく聞こえる。
 逃げ出すのなら、今がチャンスだとは思った。
 城中の人間が戦に気をとられているのなら、に注意を向ける者もそうないないだろう。
 現に、外に見張りはいない。いつもなら、扉を開けると直ぐに、見張りの者がいた。だが、先ほどそっと覗き込むとそこには誰も居なかった。
 首だけだして、突き当たりの廊下をみれば、いろんな人がバタバタと走る姿が見えた。だが、誰もこちらには注意は払っていない。
 それに、目に付くのは女性ばかりで、きっとこの部屋は戦の場から少し離れた所にあるのかもしれないとも思った。戦、それも、自分の城でとなると、女性といえどすることがあるのだろう。
 それが何なのかは、には皆目見当もつかないが。
 再びそっと扉を開く。そして、左右を確かめ、誰も居ないことを確認する。
 今のうちだ。今の内に出れば、外にはきっと伊達軍がいる。伊達の誰かに会うことができれば、きっと政宗の元に連れて行ってくれる。
 これ以上、政宗の不利にならなくてもいい。自身が伊達に戻ってくれば、きっと心置きなく攻め込めるに違いない。
 本当なら、のことを気にせず攻めてくれた方が、足手まといになったと思わなくていいのだが、政宗が気にしないとは思えない。彼は自分の周りの人間を失うことを畏れているのだから。
 周りに気をつけ、隠れながら、外に出るべく歩を進めていった。




 が部屋を抜けた後、天井から、猫が降りてきた。
 彼女は開け放たれた扉を見て、すれ違いに気づく。
 豊臣の誰かが連れて行ったのか、それとも自身が逃げ出したのか。そのどちらかなのだろが、それは猫には分からない。

「居ない可能性も考えてはいたのだけど……。助けに来ても、本人が居ないんじゃ意味がないじゃない」

 いく手を阻んだ忍を地獄に送り、尚且つの居場所を吐かせたのだが、一足遅かった。
 誰かが連れて行ったのなら、仕方が無いが、自身でここから出たのであれば、文句の一つも言ってやらないとと思い再び天井に戻った。




 城はでかく、複雑だ。
 住み慣れた城でさえ、迷いそうになるのに、知らない城だと尚更だ。
 どちらに行けば、外に出られるのか分からないまま、は走っていた。
 ここに着てから、一度も外にはでていない。入る時は、気を失っていなのだから、当然だ。
 出口がないはずもないので、進めば、いつかは外に出られるだろうが、その間に見つかると厄介だ。捕まってしまえば、今度こそ交渉の材料にされるだろう。それは避けたい。
 できる限り注意を払って、人に会わないように進むが、そのせいもあってか、自分がいま何処にいるのかさえ怪しい。
 誰にも見つかっていないということだけが、幸いといえば幸いだ。

「げっ」

 とかなんとか思ってると、噂をすればなんとやらで、城の人間と鉢合わせてしまった。

「お、お前、例のっ!?」
「あはは。こんにちは。このまま見逃して欲しいなぁーなんて……」
「捕まえろっ!! 逃げるぞっ!!!」
「あーやっぱり、無理か……」

 見逃してくれるはずもなく、豊臣兵はを追いかけてきた。
 今追いかけているのは、2人。どちらも、鎧を着ているから、きちんとした兵なのだろう。
 戦に行くはずの、兵がここにいるということは、こいつらの身分がそこそこ高いというだけでなく、戦場に少なからず近づいていることなのだろう。
 追ってから捕まってはいられないと、必死で逃げる
 足は兵の方が速いが、近づくと、持っていた短刀を振り回す。
 できるだけ怪我をさせないようにといわれているのかどうか知らないが、を捕まえようとこそし、殺そうといった気配はない。
 何とか攻撃をかわしかわし逃げる。

「しつこい……」

 逃げても追ってくる兵に、うんざりする
 どうにかして、外に出なければいけない。
 政宗に、伊達軍の皆に、自分は無事だと伝えなければいけない。

「さすがと言った所かな」
「……竹中半兵衛……」

 追っての姿が見えなくなったと安心していると、正面には半兵衛が立っていた。
 一番会いたくない人物と遭遇してしまった。


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卯月 静 (08/05/07)