【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 八拾壱





 城内は思ったよりも静かだった。
 外では大砲やら、叫び声やらが聞こえる。しかし、城内にはあまり兵は居ないようで、政宗達を足止めにする時間稼ぎにすらならない。
 本当は、外で戦っている伊達軍の皆が心配ではある。小十郎に任せているとはいえ、頭である自分は、単独行動に出ているのだ。この単独行動のせいで、仲間割れが起こっても、政宗は誰も責められはしない。
 政宗自ら、筆頭としての自分を捨て、ただの一人の男として、この戦に臨んでいるのだから。

「どこに居やがる。竹中半兵衛……」
「噂をすればってやつらしいよ、独眼竜」

 慶次の声に、前方に視線をやれば、そこには見覚えのある人物。
 間違いない、豊臣の軍師にして、二度襲撃をし、そして、に傷を負わせ攫って行った男。竹中半兵衛。

「まさか、君まで来てるとは思わなかったよ、慶次君」
「半兵衛……お前はまだこんなことを……」
「秀吉の為だよ。君は、まだあの事を気にしてるんだね」
「忘れられるわけがないだろう……」

 今までのお祭り男な慶次とは違い、半兵衛を睨み付け、拳を握る姿は別人のようだった。
 半兵衛と慶次、そして、秀吉との間に何があったのかは政宗は知らない。そして、何があったとしても、関係ない。

「取り込み中悪ぃんだが、俺も手前に用があるんでな。昔話は後にしてくれねえか」
「政宗君。君ならきっと来ると思っていたよ。そんなに、あの娘が大切かい?」
「ああ」
「僕には分からないよ。確かに不思議な娘ではあるけど。君ほどの人物が入れ込む程の娘じゃない。兵を動かしてまで取り戻す程の価値があるとは思えない」
「手前ぇには、一生かかってもわからねえよ」
「君はもう少し賢いと思っていたんだけど、僕の買いかぶりだったようだね。まあいい。一つ、取り引きをしよう」
「取り引き?」
「彼女を返す代わりに、豊臣に降りたまえ。これ以上、無駄な戦で兵を失いたくはないだろう」

 いけしゃあしゃあと言い放つ半兵衛に、慶次は一歩踏み出すが、それは政宗によって止められた。

「悪ぃが、答えはNOだ。豊臣をぶっ潰して、は取り返す」
「それは残念だ」

 溜息を付きながら、半兵衛は刀を構え、同時に、政宗も六爪を構え直す。

「ゥラッ!!」
「くっ?!」

 一足で、半兵衛の懐に入り、切りつける。
 寸でのところで、半兵衛は防ぐものの、政宗は更に攻撃を加え続ける。

「不意打ちされるのは苦手か、竹中半兵衛ぇ!!」

 ガキンッという音と共に、半兵衛の刀の切っ先が逸れる。勿論そこを見逃す政宗ではない。

「オラッ!!」
「……甘いよ、政宗君」
「っ?!」
「独眼竜っ!!」

 逸れた切っ先は、軌道を変え、政宗のわき腹を狙って来た。何とか後ろに跳び下がった物の、切っ先は政宗のわき腹を掠り、そこから、血が流れる。

「無作為に敵の懐に飛び込むものじゃない。そう、片倉君から教わらなかったかい」
「手前ぇ……」
「それに、怒りに任せた太刀筋は読みやすい。秀吉どころか、君は僕にすら勝てないよ」
「俺が勝てねぇ……? Are you bullshitting me?」(舐めてんのか?)

 先ほど以上に、低く唸る。

「俺のもんに手ぇ出したこと、後悔させてやるよ」

 政宗は再び、半兵衛の懐に飛び込む。

「僕に同じ技は二度は通用しない」

 案の定政宗の攻撃は防がれる。そして、すぐさま、半兵衛は政宗の死角から、狙う。
 政宗はそれを弾き、持っていた、刀を半兵衛目掛けて投げつける。

「怒りに、自棄にでもなったのか」

 政宗の投げた刀は、半兵衛の刀によって、弾かれる。
 が、そのまま政宗は半兵衛の懐に入り、己の拳で、殴りつけた。

「ぐっ!?」

 まさか殴ってくるとは思わなかった半兵衛は、政宗の攻撃の直撃を食らい、壁に叩きつけられる。

「手前ぇは一発、この手でぶん殴ってやらねえと気がすまなかったからな」
「君は、最初からそのつもりで……」

 弾かれた刀を再び拾い、半兵衛に刀を突きつける。

「立てよ、竹中半兵衛……。I send you to hell.」(俺が地獄に送ってやるよ)
「まだだ……。ここで僕は負けるわけにはいかない……」

 半兵衛は切っ先に弧を描かせ、政宗の後ろを狙う。だが、それは政宗が跳躍したため、空を切った。

「Bye.」
 


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卯月 静 (08/05/13)