【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 八拾四
伊達の皆が居るところに戻ると、伊達軍の人達は男泣きしながら、が戻ってきたことを喜んだ。 しかも、城に戻る道中、皆かなり気を使ってくれて、今まで以上に良くしてくれた。 城に戻るとやっぱり、城に待機してたメンバーに泣きながら喜ばれた。 皆が戻ってきたことを喜んでいる。としては、嬉しく思う反面、自分が捕まってしまったことをすまなく思ってもいた。 もちろん、こんなことを言えば、政宗はもとより、伊達三傑や、猫、そして、喜多、ひょっとしたら、伊達の全員に「何を言ってるんだ」と怒られてしまうだろう。 自分の帰る場所があるということは、幸せなことなのだと、改めて実感させられた。 「あー綺麗な月……」 は縁側で夜空を見上げていた。 今現在、城はパーティーの真っ最中だ。 が無事帰ってきたことを祝おうということで設けられたのだが、お祭り騒ぎが好きな伊達軍だ。皆すでに出来上がってしまい、各々で楽しんでいる。 少し静かな所へ行きたいと思い、こっそり部屋を抜け出してきた。 「部屋を抜けて、月見かい?」 振り向けば、そこには前田慶次が立っていた。 慶次は、の隣に腰を落とす。 「あんた、月から来たんだって?」 「……それ、政宗から聞きました?」 からかうように、面白がるように言う慶次に、はジトっと睨む。 「そんな睨むなよ。折角の可愛い顔が台無しだぞ」 「そんな簡単に可愛いなんて女の子にいっちゃ駄目ですよ。女の子が勘違いしちゃいますよ」 「恋をしてる女の子は皆可愛いんだ。だから、あんただって可愛い。実際恋してるだろ? 独眼竜に」 「いや、まあ、してますけど……」 真正面から、恋だのなんだのと言うような人間は初めて会った。これは今まで出あった中では、初めてのタイプの人間だ。 「それそれ、その敬語。俺別にどっかの殿様ってわけじゃないしさ、気軽に話してよ」 敬語なんて使われたら、痒くなるよ、と笑う慶次に、敬語は使わないで話すことにした。 普通は敬語を使えと怒られると思うのだが、ここに人達はあまり気にしていいないのだろうか? 「でも、本当に、ちゃんって独眼竜に大事にされてるんだな。京に独眼竜が来たときすげぇ剣幕だったんだぜ」 「すみません」 自分自身が言われたことではないが、思わず謝ってしまった。捕まって助けてもらった側がいう事ではないが、多分政宗は相当無茶をしたのだろう。そう思うと、被害にあった京の人々に申し訳ないと思う。 「あんたが謝ることはねーって。…………本当に仲いいよな。秀吉も独眼竜みたいに、ねねを大事にしてやればよかったのに……」 慶次の顔が曇る。 「……豊臣秀吉の気持ちは分からないけど、でも、ねねさんの気持ちなら少し分かる」 「ねねの、気持ち?」 「うん。ねねさんは、きっと、豊臣秀吉の負担になりたくなかったんだと思う」 「だからってっ!」 「殺したのは豊臣秀吉だけど、死を受け入れたのはねねさんよ」 叫ぶ慶次にお構いなしに、言葉を続ける。 「愛する人が、自分の所為で命を落とすなら、それならば、自分さえも消してしまってもいい。そう思ったんだろうなって」 慶次は何も答えず、の話を聞いている。 「自分の所為で、愛する人が傷つくのは見ていられなかったんだよ。自分が消えて、それで愛する人が守れるなら、それも一つの想いの形なんでしょ」 「俺、ねねの気持ちなんて考えたことなかったよ。ねねはきっと秀吉に手をかけられて悲しんでると思ってた。……ねねは最期に、秀吉を怨むなって言ってた」 「最期まで好きな人の傍にいられたなら、きっとねねさんは幸せだったんだと思う」 「さすが、竜の宝珠だなー」 「は同じような考えで昔、城を抜け出したからな」 少し悲しそうに、でも、どこかスッキリした笑顔で言った慶次の言葉に誰かが割り込んできた。 「政宗……」 政宗は、慶次とは反対側に座る。 「おい、前田。この間の質問に答えてやるよ」 この間の質問とはなんだろうか? とは首を傾げる。その場にはは居なかったから、知るはずもないことで、しかも、別に戦とは関係なから、なお分からなかった。 「を殺さなければいけなくなったら、何とか殺さなくていい方法を探す。それでも、駄目なら、死んだことにして、座敷牢にでも閉じ込める。そうすりゃ、表からみれば、円満解決だろ」 政宗は口元にシニカルな笑みを浮かべ、慶次を見た。 慶次は驚いているのか、呆れているのか。 「大体、失うのを畏れるんなら、牢にでも閉じ込めて、一生誰の目にも触れないようにすりゃいいんだよ」 「過激だね〜」 聞いた慶次は酷く驚いている。だが、政宗の言葉は慶次にとって嬉しいものでもあった。彼は秀吉とは違う。 自分の望んでいた、聞きたいと思っていた答えではないが、十分満足だった。 慶次は折角二人なのだから、と気を使って立ち去ってしまった。 慶次が去ると、政宗との二人だけだ。 は、立ち上がって、政宗の後ろに立った。 「?」 そして、そっと後ろから、政宗を抱きしめる。 政宗の肩が一瞬強ばる。 「大丈夫。私は政宗のこと嫌いになってないよ」 の言葉に、政宗は一瞬目を見開き、そして、苦笑した。 あの戦の後、政宗は一切に触れていない。いつもなら、過剰というほどのスキンシップがあるにも関わらずだ。 あの時は、血で着物等も汚れているからかとも思ったが、城に戻ってからも全く触らない。 隣にいるのに、どこか、壁があるような気分だった。 今自分はきっと赤面しているだろう。こんなことをするなんて、恥ずかしい。恥ずかしいからこそ、後ろからなのではあるが。 「大丈夫。私は政宗ことが好きだよ」 政宗は拒絶されることを極端に恐れている。 それは幼少時の体験が原因なのだろう。触れてしまって、に拒絶されるのは恐かったのだ、まるであの人みたいに拒絶されることが。 だが、は拒絶することは無かった。信じていなかったわけではないが、それでも躊躇するのだ。 「……うっわっ!?」 自分の体を反転させ、後ろから抱きしめていたを、押し倒す。 は驚いて、何が起こったのか分からななかった。 目の前には、政宗の顔。しかも、相当近い。 「くくっ! もっと色気のある声だせよ」 「うるさい……政宗が急に押すからじゃん……」 「……」 政宗は優しく、囁く。 「I love you, honey.」 その瞳も、戦の時とは別人ではないかと言うくらい優しい。 そして、それだけではなく、微笑む政宗は妙な色気があって、見つめられてるだけなのに、の方がドキドキしてしまう。 「Me too.」 満足そうな政宗の笑顔を見たかと思えば、次の瞬間にはどちらかともなく唇を重ねていた。 ただ触れるだけ。情熱を込めたものではなく、ただ触れ合うだけのキス。 だけど、暫くの間は、どちらも離れることなく、暫くはそのままで居た。 次へ 戻る 卯月 静 (08/06/04) |