夢か現か side Hiroine
気がつくといつの間にか、は応接室にいた。
確か先ほどまで、自分は図書室のいつもの場所でいたはずなのだが……。
「」
聞き覚えのある声に呼ばれ、振り返る。
「委員長?」
顔は良く見えないが、あれはきっと恭弥なのだろう。
は彼の所へ行こうと一歩踏み出した。
が、何故か、目の前には恭弥が居た。
彼と自分との距離は一歩なんて物ではなかったはずだ。
「あれ? 委員長、さっき、もっと離れた場所に居ましたよね?」
「僕は動いてないよ」
「……そうですよね」
何故か、それ以上は不思議に思わず、こういう事もあるかと、納得してしまった。
「」
「はい?」
恭弥に名前を呼ばれることは滅多にない。
大体彼は、のことは「君」と呼んでいる。
だが、さっきといい、今といい、やたらと名前を呼ばれる。
しかも、いつもよりも優しく聞こえるのは、気のせいなのだろうか。
「ねえ、」
「は、はい!」
恭弥は、の髪に触れながら、名を呼んだ。
ただ、それだけなのだが、の心臓はいつも以上に高鳴る。
「名前で呼んでよ」
「雲雀さん?」
「違う」
普段から、名前なんて呼ばないから、苗字といえども緊張した。
だが、恭弥は即刻否定する。
つまりは、下の名前で呼べということか。
無理だ。
苗字でも緊張するのに、下の名前でなんて。
普段ならそう言い返すのだが、ふと、これは夢ではないのだろうかと感じた。
夢ならば、恭弥がやたらと名前を呼ぶのも分かるし、優しい声音なのも頷ける。
夢、つまりは、の願望に近いわけだ。
ならば、呼んでも問題はないのでは、と思う。
「きょ、恭弥、さん……」
夢だとしても、やはり恥ずかしい。
夢の中とはいえ、目の前にいるのは恭弥なのだから。
最後の方は、小さくなったが、それでも彼には聞こえたようだった。
恭弥は、が名を呼ぶと、に笑いかけた。
それは今まで見たこともないような、優しい笑顔。
もう少し見ていたと思ったが、段々との意識が遠くなる。
そろそろ、目が覚めるようだ。
目を開けると、目の前に恭弥がいた。まだ、自分は夢を見ているのだろうか?
ぐるりと、周りを見る。間違いなくここは図書室だ。
何故ここに彼がいるのだろう? やはり、これは夢の続きなのだろうか。
「恭弥さん?」
恭弥は驚いた様子で、目を丸くしている。珍しい表情が見れたと思っていると、段々と頭がはっきりしてきた。
「…………委員長っ!? す、すみませんっ! 失礼しますっ!!」
寝ぼけていたとはいえ、本人を目の前にして、名前、しかも、苗字ではなく、下の名前を呼んだ。恥ずかしくて、謝りながら、はパタパタと図書室を出て行った。
出て行くを眺めていた恭弥だったが、姿が見えなくなった後の彼の口元は、弧を描いていた。
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卯月 静 (09/02/05)