夢か現か side Hibari




 今日は図書室に寄ってから、来ると言っていたから、恭弥は図書室に来た。
 自分は応接室で待っていると思っているから、その恭弥がきたら、彼女は驚くだろう。どんな反応をするのか楽しみで、彼女には行くとは言わず、ふらりと来た。
 いつもの、がいるだろう場所にいくと、彼女は長椅子に座って眠っていた。
 読みかけの本は、手から滑り落ちている。恭弥はそれを拾い、近くの机に置く。

…………」

 彼女が寝ている長椅子の隣に座り、彼女の耳元で名前を呼んでみる。しかし、は熟睡しているらしく、全く起きる気配はない。
 特別に用事があったわけではない。だから、眠っているのなら、起す気はないし、何かをするつもりもなかった。
 ただ、安らかに眠る彼女を見つめる。

「ねえ、

 恭弥は、の髪に触れながら、自分でも気づいていないであろう優しい声音で、眠るに囁く。

「君はいつになったら、僕の名前を呼んでくれるんだろうね」

 にしか聞こえないくらいの声で言ったつもりだったが、言った本人である恭弥は、やけにはっきり響いたように感じた。
 彼女は恭弥のことを名前で呼ばない。恭弥自身だって、彼女のことを滅多に名前では呼ばないが、回りの人間は、恭弥のことを大体苗字で呼んでいる。にも関わらず、彼女は苗字ですら呼ばない。
 恭弥のことを「委員長」なんて呼ぶのは、風紀委員くらいのものだ。しかし、は風紀委員でもなんでもない。
 ならば、下の名で呼んでも許してあげるのにと思う。基本的に、下の名前で呼ばれるのは、馴れ馴れしくて好きじゃない。だが、彼女なら、下の名前で呼ばれてもいいように思う。
 そんなことを考えていたら、どうやら、は目が覚めたようだ。
 まだ、寝ぼけているのか、周りをぐるっと見渡したあと、恭弥を見つめた。

「恭弥さん?」

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卯月 静 (09/02/05)