ザ・テンペスト
【 first meet : 前編 】



 真選組に来て数ヶ月。隊士達とも仲良くなり、すっかり真選組の一員になった。
 元々は真選組の隊士である兄、に半分押し付けられる形で此処に来ることになった。
 兄の用意した地図は地図とは名ばかりで全く役に立たなかったなぁと、しみじみ思い出していた。




 数ヶ月前。 右手には大きめの車輪付き鞄。
 左手には一枚の紙。
 その紙にはなにやら地図のような物が描かれている。
 それを持っている少女はキョロキョロと周りを見渡している。
 少女の名は、
 が上京したばかりであるというのは、誰が言わなくても明らかである。

「ったく。こんなに可愛い女の子が困ってるってゆーのに、皆ジロジロ見るだけだし。やっぱり都会の人って冷たいんだなー」

 溜息をつきつつ、は先ほどからずっとぼやいていた。
 残念なことに、今のの周りに、可愛いって誰がだ。とツッコミを入れる人物はいない。
 さらに言えば、周りの人物は冷たいのではなく、紙と睨めっこしつつぶつぶつ呟くが怪しくて近づけないだけなのだ。
 出来れば関わり合いになるのは誰もが遠慮願いたいと思うのは何も都会の人々だけではないだろう。
 そんなに声をかけるのはよっぽどの馬鹿、またはお人よしくらいであろう。

 そんなこんなではやはり、自分で辿りつかなければいけないかと地図をもう一度見る。

「バカ兄貴め……」

 はこの地図を描いた自分の兄に毒づく。それも無理はない。
 地図には、道路を表す2本線が書いてあり、その道路沿いに四角が書いてある。そして、その四角に向かって矢印が向かっていて、その元には一言「ココ」と書いてあるだけなのだ。
 この地図を見て無事辿りつける者はいないだろう。

 これはやはり、誰かに声を掛けて連れて行ってもらうのが一番手っ取り早いだろう。
 誰か教えてくれそうな人はいないかなとは周りを見渡す。

「あの……すみません。道を尋ねたいんですけど……」

 は買い物帰りらしい、眼鏡の男の子に声をかけた。

「え……。どこですか?」
「えっと。真選組ってとこなんですけど……」
「あー……ここからだと少しややこしいですよ」

 そう言われ、はどうしようと思いつつも、とりあえずお礼を言って立ち去ろうとした。しかし、がお礼を言う前に少年が口を開いた。

「これだったら、真選組の人探して連れて行ってもらった方が早いですよ」
「真選組の人ですか?でも、私どの人が真選組の人なのか……」
「デートとは隅に置けないねィ」

 わからない。と言うの言葉は別の人の言葉に遮られた。
 そこにいたのは茶髪の少年。

「あ、沖田さん。デートじゃないですよ。さっき会ったばかりですから」
「じゃあ、ナンパかィ? 新八君もやるねィ」
「だから違いますって……。道案内してただけですよ……」

 沖田と言われた少年は先ほどが声を掛けた少年(名を新八というらしい)をからかい気味に話している。

「あ、この人真選組に行きたいらしいんですが、ここからじゃちょっとややこしくって……」
「そういうことなら俺が連れて行くから安心しなせェ」
「じゃあ、沖田さんお願いします」

 と言って新八君は帰って行く。

「アンタ名前は何て言うんですかィ?」
です。えっと、沖田さんでいいんですよね」
「ああ、沖田総悟でさァ」

 そういいながら沖田はスタスタと歩いて行く。
 というか、歩くのが早い。どうみても、女の子を連れて歩くペースではない。

「で、はどうして真選組に用があるんですかィ」

 いきなり呼び捨て!? とは思いつつ、気にしていない風に答える。

「人手が足りないから、お前そこで女中をしろと兄に頼まれまして……」
「お兄さんにですかィ」
「あの……沖田さんは……」
「総悟」
「はい?」
「さん付けで呼ばれるのは慣れてねぇから」
「あ、はい」

 半ば強引に沖田の事を総悟と呼ぶことになった。

「着いたぜィ」

 沖田の声に見てみると大きな屋敷の門に着いていた。
 だが、ペースの速い沖田についていくのに必死では息が切れ気味だ。

「ほら、先にいくぜィ」

 と沖田はを置いて行ってしまった。

「ちょっとっ! 総悟!! 私を置いてくなぁ!!」

 既に沖田の姿はなく、そこには叫ぶの姿だけであった。


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卯月 静 (06/10/06)